ブエルタ・ア・エスパーニャ2026 Stage 132026年9月5日文: Grand Tour Hub 管理人

43人の逃げが最後は2人になり、緑のジャージがスプリントで勝った

アルムニェーカル → ロハ 192.8km(中級山岳/獲得標高3,410m・J SPORTS調べ。地中海の「コスタ・トロピカル」からグラナダ県の内陸へ入ります。山は3つ、どれも前半から中盤にあります。1級・2級・3級は上りのきつさの格付けで、数字が小さいほどきつい山です。1級アルト・デ・ラ・バンタ・デ・ラ・セバダは14.1km・平均5.1%、この日の最高地点はその先のアルト・デル・レヒオナリオ(標高1,348m)です。最後の2級プエルト・デ・グラナダ(7.4km・平均5.6%)を越えると、ゴールまで37.4km。ロハの市街に入ると残り2kmにラウンドアバウトが5つ並び、ラスト1kmは緩い上りです)

159人が走り出して、そのうち43人が朝の逃げに乗りました。4人に1人以上が前へ行った計算です。 その43人に、ポイント賞の緑のジャージを着たワウト・ファンアールトと、すでにこの大会で3勝しているマシュー・ブレナンがいました。同じチームから2人、それも勝ち方の違う2人です。 勝ったのはファンアールトでした。ただ、その勝利のために走り回っていたのは、24秒遅れて3位に入ったブレナンのほうです。

13S2
海沿いのアルムニェーカルを出て、17km地点から1級アルト・デ・ラ・バンタ・デ・ラ・セバダ(標高820m)へ。そのあと道はずっと内陸の高いところを走り、最高地点はアルト・デル・レヒオナリオの1,348mです。最後の2級プエルト・デ・グラナダ(1,034m)から、ふもとのロハまで37.4kmを下り、市街に入る手前に短い上りがひとつだけ残ります 1級山岳 アルト・デ・ラ・バンタ・デ・ラ・セバダ残り161.6km地点 3級山岳 アルト・デル・レヒオナリオ残り109.4km地点 中間スプリント トコン残り47.8km地点 2級山岳 プエルト・デ・グラナダ残り37.4km地点

📊 今日のデータ

シーズン集計を見る →
スタート曇り 27.5℃・風2.1m/s
ゴール曇り 40.4℃・風4.5m/s
逃げ43人 → 逃げ切り 🎉
決着少人数の勝負(ワウト・ファンアールト)
総合エンリク・マスが首位堅持(+105秒)
完走155 / 159人
敢闘賞アンドレアス・クロン(#135・Uno-X Mobility)

159人のうち43人が前へ行き、1級の山頂は緑と水玉が争った

アルムニェーカルは地中海に面した町で、コースは最初の15kmほどが平坦です。旗が振られてすぐ、ドメン・ノヴァエンゾ・パレアスビョルン・ヘレモーファビオ・ファンデンボッの4人が出ていきました。登りを得意にしない4人が、坂が始まる前の走りやすいうちに動いた形です。

道が上を向いたのは17km地点から。1級アルト・デ・ラ・バンタ・デ・ラ・セバダ、14.1kmで平均5.1%の坂です。ここで集団が壊れ、4人はのみ込まれ、代わりに前へ出た人数が最終的に43人になりました。

山頂を先に越えた選手から順に、山岳賞のポイントが配られます。最初に越えたのはワウト・ファンアールで10点。2番手が山岳賞の水玉ジャージを着るサンティアゴ・ブイトラで6点、3番手のロレンツォ・フォルトゥナーが4点。1番に山を越えたファンアールトが着ているのは、水玉ではなくポイント賞の緑です。スプリントで稼ぐはずの選手が、山のポイントまで取りにきています。

43人には総合7位のマティアス・スケルモーもいました。総合首位の赤いジャージを着るエンリク・マとは7分42秒差。マスのチーム、モビスターとしては放っておけない相手です。とはいえ、43人をまとめて追える力はどのチームにもありません。逃げと集団の差は、4分を超えました。

この坂で、総合上位の選手がひとり消えています。9位のグレゴール・ミュールベルガ。落車し、いちど乗り直したものの、そのまま走り続けることはできませんでした。総合3位のフェリックス・ガにとっては、山で頼りにしてきた味方です。

🔰 初心者向けメモ: 逃げが大きすぎると、逃げは回らなくなる

逃げは人数が多いほど強い、とは限りません。この日の43人は、決まった直後から割れ続けました。

理由は単純で、43人の目的がばらばらだからです。ステージ優勝を狙う選手、総合順位を上げたい選手、山岳ポイントだけ取りに来た選手、エースの前で待機する選手。先頭交代を回すには全員が「このまま逃げ切りたい」で一致している必要がありますが、43人だとまず一致しません。

だから大きな逃げは、たいてい途中で自分から分裂します。この日も上りのたびに前が割れ、下りでまた合流し、また割れました。追う集団から見れば、放っておけば勝手に小さくなっていく相手でもあります。

出典:Cyclingnews ライブ(最初に出た4人、1級の手前で30人ほどが抜けたこと、スケルモースの合流と7分42秒差、ミュールベルガーの落車)ラ・ブエルタ公式 ステージ13ランキング(1級アルト・デ・ラ・バンタ・デ・ラ・セバダの山岳ポイント: ファンアールト10点・ブイトラゴ6点・フォルトゥナート4点)ラ・ブエルタ公式レポート: Van Aert rules an attacking festival(逃げが43人だったこと、最後の上りに入る時点で集団と4分50秒差だったこと)J SPORTS: ブエルタ・ア・エスパーニャ2026 第13ステージ/コース(獲得標高3,410m)

先頭にブレナンが残り、チームは後ろのファンアールトを呼び戻した

逃げは、上りのたびに割れました。アンドレアス・クロクリスティアン・ロドリゲが前へ出ては吸収され、しばらくしてマシュー・ブレナアンドレアス・レックネスケヴィン・ヴェルマーの3人が本格的な分裂を作ります。

この日の最高地点は、アルト・デル・レヒオナリオでした。上りは15.4kmで平均勾配3.1%、頂上は標高1,348m——朝に越えた1級の山頂より500m以上高い場所です。ただし坂としては朝のほうがきつく、この日いちばん高い峠は、いちばんきつい峠ではありませんでした。山頂のポイントはヴィンチェンツォ・アルバネーギヨーム・マルタ、クロンの順に入りました。ファンアールブイトラも、このときは割れた逃げの後ろ側にいて、争いに加わっていません。

先に分裂を作った3人に何人かが合流して、前の集まりができます。逃げの残りを1分30秒引き離しました。ブレナンはそこにいて、ファンアールトはいません。

145km地点、トコンの中間スプリンでは、そのブレナンが20点を取りました。

ここでファンアールトとブレナンのチーム、ヴィスマ・リースアバイクが選んだのは、ブレナンをそのまま勝たせにいくことではなく、後ろのファンアールトを前へ引き上げることでした。同じチームのブリュノ・アルミライが、後ろ側の集まりの先頭に出ます。彼も朝から逃げに乗っていた1人で、風よけになってペースを上げにかかりました。

ただ、アルミライユが牽けば、そこにいるライバルたちも一緒に前へ運ばれます。ファンアールトが届かなければ、前にいるブレナンは相手が増えただけになる——そういう賭けでした。

出典:Cyclingnews ライブ(逃げの分裂、レヒオナリオでファンアールトとブイトラゴが割れた後ろにいたこと、アルミライユが追走を牽くというチームの判断、ブレナンの中間スプリント)ラ・ブエルタ公式 ステージ13ランキング(レヒオナリオの山岳ポイントと、トコンの中間スプリントでブレナンが20点)ラ・ブエルタ公式 ステージ13コース(3つの山の距離・勾配・標高。レヒオナリオの頂上が1,348mでこの日の最高地点)Cyclingnews: レースレポート(前の集まりが逃げの残りを1分30秒引き離したこと)

最後の山を下りてから、ブレナンが飛び出しを戻し続けた

最後の山は2級プエルト・デ・グラナダ。7.4kmで平均5.6%、頂上からゴールまで37.4kmです。前にいる全員が同じことを考えていました——スプリントの速いブレナを、ここで落とさなければならない。

落ちませんでした。頂上を先に越えたのはヴェルマーでしたが、下りでいくつかのグループが合流して先頭は20人ほどに膨らみ、そこにはアルミライが引き上げたファンアールもいます。賭けは通りました。

そこからはヴィスマの2人が交互に仕掛け、先頭はまた9人になります。ただし顔ぶれは入れ替わりました。ファンアールト、ブレナン、ヴァランタン・パレパント、ヴェルマーク、フィン・フィッシャーブラッレオ・ビジオヤルノ・ウィダーアルバネーシモン・ダルビの9人です。

そして誰かが飛び出すと、たいていそれを戻しにいったのはブレナンでした。ビジオー、クロ、ヴェルマーク——出た相手のところまで、自分で追いつきにいきます。

2日前の第11ステーでは、ファンアールトがブレナンの最後の発射を務めていました。この日は逆です。

「あの逃げのなかで、僕はあまり人気がなかったと思います」とブレナンはゴール後に言っています。「でも後ろにスーパースターがいると分かっていたし、チームは彼を最高の形に置くために全力で走っていた」

気温は40℃近くありました。彼は氷を入れた靴下を首もとに差し込んでから、こう続けています。「レースらしいレースでしたね、あれは」

🔰 初心者向けメモ: 同じチームから2人が逃げに乗ると、何が起きるのか

同じチームの2人が同じ逃げに乗ると、ほかの選手はとても走りにくくなります。

この日でいえば、スプリントの速いブレナンを連れたままゴールまで行けば、まず勝てない。かといってブレナンを落とすために攻撃を繰り返せば、その動きに乗ってファンアールトが抜け出す。様子を見て止まれば、ヴィスマの2人がペースを握る。どれを選んでも相手に得がある形です。

ブレナンは、攻め続けた理由をこう説明しました。「そうやって攻めないと、相手の思うつぼになる。相手をずっと受け身にしておければ、チームは走りやすくなるし、こちらの攻め方もずっとうまく選べます」

出典:Cyclingnews ライブ(プエルト・デ・グラナダの頂上をヴェルマークが先頭で越えたこと、下りで20人ほどに合流したこと、先頭9人の顔ぶれ、ビジオーとヴェルマークのアタックをブレナンが戻したこと。なおヴェルマークのアタックを1本ファンアールトが塞いだとも記録している)Cyclingnews: ブレナンのインタビュー(「あの逃げのなかで、僕はあまり人気がなかったと思います」「Proper racing that one」、攻め続けた理由、40℃近い暑さと氷を入れた靴下、ビジオー・クロン・ヴェルマークのアタックを戻したこと)

残り4kmを切って緑が出て、ついていけたのはひとりだった

ロハの市街に入る手前に、短い上りがひとつ残っています。ファンアールは、そこを知っていました。

残り4kmを切ったところで、彼が出ます。ついていけたのはヴァランタン・パレパントだけでした。

「あの仕掛けは、頭のなかに少しはありました。高低差図を見ていて、町に入る前にこの最後の坂があると分かっていたんです。この距離になると、たいていみんながスプリントのことを考え始める。そこで差を開けられれば、もう誰も他人のために追わなくなる」

追いかけた選手は、後ろにいる全員をゴールまで連れていくことになります。だから最後は誰も先に動かない——第4ステーで、世界王者の50km独走が最後まで捕まらなかったのも同じ理由でした。

「彼が動いて、僕がついていったとき、ブエルタが始まってからいちばんきつい5秒間を過ごしたと思います。本当に、ぎりぎりで後輪にしがみついていました」

パレパントルは2024年のジロ・デ・イタリアと2025年のツール・ド・フランスでステージを勝っていて、ここにブエルタが加われば3つのグランツールがそろうところでした。

風よけの先頭を2回だけ短く代わったあと、パレパントルは残り1.5kmで「もう先頭は引かない」と告げます。告げられたほうは、そのやりとりをこう振り返りました。「ヴァランタンという、いい相棒がいました。何度か引いてくれたし、ゴールまで一緒に競り合えたのはよかった」

スプリントは、後ろについていたパレパントルが先に仕掛けました。一瞬、ファンアールトの横に並びます。負けたあと、パレパントルはこう話しています。

「それでも僕はスプリントを信じていました。いつだって信じないと始まりません。自分にもそれなりの速さはある。でも相手はワウト・ファンアールトです……その瞬間は横にいて『いけるかも』と思ったんですが、そのあと彼はロケットみたいに出ていきました」

後悔はない、と彼は言いました。24秒後ろでは、ブレナが後続の先頭でゴールし、3位に入っています。

🔰 初心者向けメモ: 「もう引かない」と、声に出した

2人だけで先行したときの駆け引きは、ツール第13ステージのメに書きました。スプリントの遅いほうは、逃げ切れる程度には協力して脚を残す——その線引きはふつう黙って行われるので、「声を出さない交渉」になります。

この日のパレパントルは、それを口に出しました。風よけの先頭を2回だけ短く代わったあと、残り1.5kmで本人に伝えています。

言われたほうは、それでも引き続けるしかありません。2人まとめて捕まるより、1着と2着を争うほうがいいからです。

出典:ラ・ブエルタ公式: ファンアールトのコメント(「I had it a little bit in my mind, when I looked at the profile and saw that last kicker before coming into the village」「ヴァランタンという、いい相棒がいました」)DirectVelo「Valentin Paret-Peintre : Il faut toujours y croire」(パレパントルの言葉。フランスの自転車専門メディア「ディレクトヴェロ」が、ゴール地点でのユーロスポーツの取材を引いたもの。「les cinq secondes les plus dures depuis le début de la Vuelta」「il est parti comme une fusée」、短い先頭交代2回と残り1.5kmでの宣言)Cyclingnews: レースレポート(残り3.6kmでのアタック、パレパントルが2番手から先に出たこと、ブレナンが24秒差で3位)J SPORTS: ブエルタ・ア・エスパーニャ2026 第13ステージ/コース(ロハ市街の残り2kmに5つのラウンドアバウト、ラスト1kmが緩い上り)

敢闘賞は12位でゴールした男へ。3年前、初勝利を仲間に捧げている

ここからは、先頭の勝負の外側の話です。

総合争いは動きませんでした。逃げに乗ったスケルモーは集団より2分10秒早くゴールしましたが、ひとつ上の6位とは33秒差が残り、順位は7位のままです。赤いジャージはが守りました。

この日の敢闘は、アンドレアス・クロに贈られました。順位は12位、ファンアールから45秒遅れです。最初の1級から43人のなかにいて、レヒオナリオの山頂で山岳ポイントを拾い、最後の山を下りてからも何度か飛び出し、そのたびにブレナに戻されました。ゴールの写真には写らない一日です。

クロンには、こんな日があります。2023年のブエルタ第2ステージ、彼は初めてグランツールのステージを勝ちました。そのとき彼はまず、「グランツールでの初勝利は亡き母に捧げると、ずっと言ってきました」と話しました。そのうえで、その勝利を別の人に捧げます。2日前に事故で亡くなった、22歳のチームメイトでした。「母にはもう少し待ってもらいます」

🔰 初心者向けメモ: 敢闘賞は、ファンが決める

その日いちばん攻めた選手に贈られる賞です。ブエルタで少し変わっているのは、選ぶのが観ている側だということ。主催者は「ファンが選ぶ、その日いちばん戦った選手への賞」と説明していて、公式サイトに毎日その日の投票ページを立てています。英語版のページもあり、日本からでもつながります。

上位でゴールしなくても、攻め続けた一日は残ります。クロンのこの日は、そうやって記録に残りました。

出典:ラ・ブエルタ公式 ステージ13ランキング(敢闘賞のクロン、クロンの12位・45秒差、スケルモースの24位・50秒差)ラ・ブエルタ公式 敢闘賞の投票ページ(「an award for the rider who, according to the fans, has put up the best fight during each stage」。英語版があり、埋め込まれた投票ウィジェットの見出しは「Vote now for the Plátano de Canarias Combativity Award」)ロット・ドスニー公式: Kron honours Tijl De Decker with stage win in Vuelta(2023年、クロンがグランツール初勝利を亡きチームメイトに捧げた経緯と本人の言葉)

今日の寄り道

自転車をちょっと離れて、ステージが駆け抜けた土地の話。

食文化チェリモヤ(コスタ・トロピカル)

チェリモヤは南米原産の果物で、日本では「森のアイスクリーム」とも呼ばれます。スペインはこの果物の一大産地です。産地を名乗れる町は決められていて、スタート地のアルムニェーカルもそのひとつ。暖かいけれど暑くなりすぎない土地でないと育たず、その条件がそろう場所はスペインでもこの海岸線にほぼ限られます。海沿いを「コスタ・トロピカル(熱帯の海岸)」と呼ぶのは、そういう理由です。

食文化ロスコス・デ・ロハ

ゴール地のロハには、ロスコス・デ・ロハという焼き菓子があります。卵とレモンと砂糖とでんぷんで作る乾いた生地に、クリームとメレンゲを重ねた輪の形の菓子です。ルーツはアンダルシアのイスラム時代までさかのぼるとされ、この町で作られるようになったのは19世紀半ばごろ。43人が最後まで割れ続けた一日の終着点は、輪の形をした菓子の町でした。

写真: Wikimedia Commons(フリーライセンス)

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この記事を書いた人

Grand Tour Hub 管理人

ロードレースの面白さを初心者目線で伝えるファンサイトの管理人。いちばん好きなのは、ゴール直前までもがいてスプリンターを発射させたアシストが、仲間の勝利を確信して、自分はまだゴールの手前なのにガッツポーズをする瞬間です。

※ 観戦記は管理人による独自の執筆コンテンツです。選手タイプの解説はタイプ図もどうぞ。